kobeniの日記

仕事・育児・目に見えない大切なものなどについて考えています。

「自然なお産」が「不自然」である7つの理由



三部作をこれで締めくくろうと思います。いつにも増してトンデモブログが飛び交う昨今、出産&ブームの経験者として、ひとことモノ申させて頂きます。現在、妊娠中で不安を抱えている方にとって、少しでも参考になればと思います。長いので、お忙しい方は見出しだけ読んでくださいね。


過去の二部作について
●「自然なお産」の基本情報についてはこちら
元スイーツ妊婦、「自然なお産」について考える。(その1 私が触れた女性誌、書籍から) - kobeniの日記

※「自然なお産」の定義は、特に正式なものがありません。よって、ここでは私が目にした本や雑誌などあった記述を基に話を進めます。必ずしも、全ての助産院・自宅出産が間違ったお産を推奨している、ということではありません。


●ブームの考察はこちら
元スイーツ妊婦、「自然なお産」を考える。(その2 歴史や世代からの考察) - kobeniの日記



1.「自然に産む」ことを美化し、「安全」についての積極的な記述がない


まず、最も注意したいのはこれです。雑誌で組まれているあらゆる特集に、そのリスクの説明がありません。おそらく妊婦が情報収集をする際に最も気にしているのは「安全」であるのに、確かなデータなどを提示せず「昔はお産はなんでもなかった」「お産はプリミティブな行為」と抽象的な表現をすることで、近代のお産における医療の貢献度を巧妙に隠しています。
戦後、出産に医療が関わるようになり、リスク(赤ちゃんの死亡率など)は限りなく0に近づいています。それは日本の誇る医療技術の賜物でしょう。医療介入を避けるということは、そのリスクをとるということです。「私は妊娠中、何も問題なかったから、自然なお産ができるわ」という方も、気をつけてください。もしお産の経過が順調でも、当日、出産がどうなるかはまた別問題です。妊娠した瞬間から、出産当日のリスクまで踏まえて、産み方を決めるべきである、と思います。

 
リスクの考え方についてはこちら。
kikulog



2.「自然」という言葉の使い方は、その逆を「不自然で劣っている」と印象づける
(自然=本能的=正しい、「人間ならば」自然な出産をするべきだ、という考え方)
 

特に協会などの権威が定義づけしたわけでもない「自然なお産」という言葉が、一人歩きしています。「下から産むのが『自然』じゃない?」「人間はママのおっぱいで育つもんじゃない?」というような言葉は、同時に「自然ではない」産み方をした女性=帝王切開、無痛分娩、陣痛促進剤利用者、母乳育児ができない人などに対して、差別的・抑圧的なニュアンスを持ちます。
では、「本能的」は常に正しいのでしょうか。仮に自然分娩が、生物学的に「本能に従った行為」だったとしても、私たち人間にとって、本能は絶対的なものではありません。
これは意外に、意識されていない問題だと思います。私も、出産まで「本能的な行為」など意識したことがなかったので、「出産は病気ではない自然の摂理なのだから、なるべくそれを尊重するべきなのかな」と思っていました。本能に従うのは時に悪いことではありませんが、人間は文化的な生き物ですから、原理主義的に執着する必要もないはずです。この、「なんとなく本能的なことを尊重した方が、赤ちゃんには良さそう」というのが、実は自然なお産の最たる選択理由になっているのかもしれません。母乳育児信仰も同様です。
それほど現代人の生活は、「自然の摂理」を意識する機会に、あまりに欠けるのだと思いますが…。



3.全ての女性が選択できない出産方法である(ことが伝わっていない)



自然なお産派の資料など読んでいると、「昔はみんな家でポンポン産んでたのよ〜」と書いてありますが、「こういう方はムリです」というリストを見ると、そのケースは非常に多い。逆子であるとか、帝切の経験者であるとか、持病のある方とか、つまりは医療のサポートが必要な方ですね。
これはマスコミに問いたいのですが、全ての人が選択できないものを、特集などを用いて、あたかもすべての妊婦に選択の自由がある・先進的な産み方であるように喧伝するのはいかがなものか。限られた人しか享受できないのなら、病院出産含め選択肢すべてを提示する特集の方が、情報の質としてずっと上ではないでしょうか。



4.自然なお産を徹底すると、現代の妊婦にとって明らかに負担


参考文献の体験談などを読んでいると、こんな人がたくさん出てきます。

「自然なお産」関連の本を読む→なるべく自然に自分の力でお産がしたい→助産院や自宅などを選択しようとする→両親に止められて総合病院へ→自然に産みたいのでバースプランを提出する(会陰は切りたくありません!!なるべく促進剤は使わないで!!)→お産に備え早々に退職し数ヶ月、スクワット100回、ホメオパシー、一日3時間歩くなどの言いつけを守る→それでも予定日を過ぎる→促進剤でむりやり産んだという自分を責める「赤ちゃんが産まれたいように産ませてあげられなかった…体づくりができてない私のせいだわ…」


育児休暇に入る場合、妊娠8ヶ月まで働かなければならない(これもホント長いと思うんですが)現代女性が、どうやって一日3時間も歩くのでしょうか。「昔の女性は畑仕事や拭き掃除をしていたから、安産だった」…で?っていう。大きいお腹で、ラッシュで通勤するだけでも精一杯なのに、その上拭き掃除なんかしたら、むしろ体に障るでしょう。もし女性のカラダ作りのことを指摘するならば、むしろ中学生位の年齢から妊娠に備えてないと意味がないでしょう。畑仕事が必要ならば、幼い頃からやらないと、「農作業しかしていなかった、100年前の女性の体」に近づくのは、難しいですよね。
しかも、運動が絶対的に安産を保証するわけではないんです。なので、上記のような女性が出てくるわけです。


極端な例としてはこちら
吉村医院|お産の家 しあわせなお産をしよう 愛知県岡崎市



5.科学的根拠のない「赤ちゃんのため」を多用する


なぜ食事制限、スクワット100回、ホメオパシー、一日3時間歩くなどの無茶な言いつけを守ろうとしてしまうのか。それは、このマジックワード「赤ちゃんのため」にあるように思います。


・赤ちゃんの出てきたい方法で、赤ちゃんが出てきたい時に産むべき
・赤ちゃんがどう産まれてくるのが幸せか
・赤ちゃんに聞いてみて


どんな感じで出てきたいのか、赤ちゃんにインタビューできるものなら、ぜひ聞いてみたい。
最もメジャーなのは、「赤ちゃんが痛い思いをして出てくるのだから、あなただって痛い思いをしなくては」でしょうか。妊婦なら一度は言われる台詞です。お母さんが楽すると、赤ちゃんがより苦しむなら問題ですが、そういうわけでもないでしょう。しかし妊娠中に、これを年のいった助産士さんに言われると、まあそういうもんかな、と思わせる謎のパワーがあります。「僕を麻酔で帝王切開で産んだママのことが憎い」という子供がいる…わけないですよね。

一部の母親が、マクロビオティックやホメオパシーなどを含む疑似科学を信じ切ってしまう原因として、「子供に対する責任感につけ入っている」という点があると思います。この「主語赤ちゃん」も同様で、プレママの弱みにつけこんでいると思います。

id:misarine3「子どものために」と何か手間ひまをかけることが、最善であり、手をかけないと虐待母になるようなそんな妄想まで抱きました。あの手の情報って脅迫じみた所がある気がする

(前のエントリに頂いたブコメから)


母親に向けられる「子供のためでしょ」という脅迫は、妊娠した瞬間から始まるのです。それは時に、企業やマスコミによる「子供のためにお金を使え」という脅迫、なのかもしれません。



6.お産を「楽しくて気持いい」=楽で痛くない、という印象を与えている


これはサラリといきます。痛みの感じ方はそれぞれですが、出産が「痛い」ことは間違いないです。それを「陣痛はパワフル」というような、謎の言い換えをするのはやめて頂きたい。なぜか?本当に痛みが怖くて、出産を恐れている妊婦もたくさんいるからです。恐怖でパニックになってしまうくらいなら、麻酔をかけた方がよいケースもあるでしょう。あれを「キモチよかったよ」とのたまう方というのは、おそらく宗教などで散見される「修行・苦行」においても同じ感想を述べるのではないでしょうか。痛みをなるべく和らげるための工夫は、無駄ではないですが、「楽しくて気持いい」は、話半分に聞いた方が良いと思います。



7.やたら「出産」という行為のみをとりあげて、問題としている
(ポジティブであるべき情報は、「産む」行為について、だけではない)


まわりに妊婦がいない中、ひとり情報収集していると、女性誌の取り上げ方によっては「産み方」がとても重要なのでは?と思えてしまいます。「自然なお産」ブームは、出産という行為を、やたら神聖なもの=記憶に残る特別な体験にしなければならない、という煽りのように感じられます。大抵の人は、翌日から始まる怒濤の育児で、出産当日のことは遠い記憶になっていくものです。それよりも現在、核家族が当たり前の世の中で、赤ちゃんにしっかりふれあったことがないまま、母親になる人が増えています(私もそうでした)。育児は「点」ではなく「線」ですし、ネガティブな情報の方が多い世の中ですから、「子育て」についての方が、よりポジティブで充実した情報が必要だと思います。





個人的体験もふまえて、まとめ−
■「自然なお産」は、一部の「お産オタク」のためのものである


「妊娠〜出産」は、確かに強烈な体験です。勝手にどんどんお腹が大きくなり、体調が悪くなったり毛深くなったり涙もろくなったり、お腹の中で子供がもごもご動いたり、私にとっては今までの人生の中で、最も「体を使っている」という体験でした。変化があまりにも大きく急激で、そこに自分の意志が入る余地が全くない。「自然」に乗っ取られているような感じです。しかも、お腹の中で作られているのは、紛れも無く人間である。それは、自分という人間以上の存在(=自然)に、「お前はしょせん、私によってつくられた人間なのだ。おまえが人間をつくることはできないのだ」と、ガツンと言われているような体験でした。「赤ちゃんがやってくる」という幸福感だけでは、言い表せないインパクトがありました。


「自然なお産」というのは、そういう体験をあますところなく楽しもう、という考え方なのでしょう。頭ばかり使いすぎて、万能感を持ちがちな現代の人類にとって、自然の偉大さ・自らのちっぽけさを身をもって知るということは、確かに貴重な体験です。しかし、もうここまで読んでお分かりかと思いますが、自然に産もうが医療行為をして産もうが、助産院で産もうがLDRで産もうが、妊娠し出産するだけで、じゅうぶん「自然の偉大さ・自らのちっぽけさ」は体験させられてしまうのです。というかですね、「出産」という体験を通してでなくても、山に入ってみたり芝生の匂いを嗅いだだけでも、想像力を働かせれば、本来は感じることができるのではないでしょうか。ただ、出産という現象が、目に見えて神秘的で分かりやすい、というだけのことだと思います。人間から人間が出てくるわけですからね。



「自然なお産」や「母乳育児」にハマる人というのは、山の神秘にとらわれすぎた登山家のようなものじゃないでしょうか。何事も、過度に徹底することは危険につながります。自然信仰の全てがダメだとは思いません。ただ、気をつけてください。おもしろい体験だからと、オタクになりすぎるあまり、遭難してほしくはないですよ、と言いたいです。子供の命にも関わることなのですから。



■わたしはマスコミに怒っているのです


前回の、ブームの考察を見て頂ければわかりますが、ロスジェネは「雑誌好き」な女性が、かろうじて多い世代です。そう、基本的にマスコミを信用しています。スタイリッシュに撮影され、プロのライターが語り、芸能人がレコメンしていれば、憧れてしまう人も多いと思うのです。ブームに乗って、読者を振り回しているという印象です。吉村医院のリスクくらい、少し調べれば分かることです。小悪魔agehaの編集長を見習いましょうよ。同世代が創っているんだろうと想像できるからこそ、どうなのよ?と思うのです。



■ちなみに私のお産はどうだったか


私自身は、産後8ヶ月から休暇に入り、毎日ヨガなんかして有機野菜なんか食べて暮らしていましたが、予定日を過ぎてもなかなか子供が出てきませんでした。お腹に長い時間いることは、羊水が汚れてくるから良くないということで、陣痛促進剤を使い、お腹の子がとても大きかったので、吸引分娩になりました。小さなところでしたが、病院にはとってもお世話になりました。息子はいまのところ大きな病気もなく、すくすく育っています。仕事がデスクワークだし、体力はない方なので、なかなか産まれなかったのは、私の現代的な生活のせいかも?と思ったりしますが、だからといって、農家の娘っ子時代に戻りたいとは思いません。


最後に。完全母乳育児徹底は、やめといた方がいいですよ。子供がミルクを飲めないと、あなたどこにも行けなくなりますよ?!パパやおばあちゃんに見ててもらうこともできず24時間一緒、それが何をイミするかというと、美容院や映画やライブ、ウィンドウショッピングや二次会、選挙で投票、皆既日食を観に行くなどの一人遊びは、一歳ごろまで全く不可能、ということです。もちろん、お酒も飲めませんよ。




追記:関連エントリーまとめました。まだ追加するかも。



年配の方には「おっぱい出てる?」と聞かれる事が多い
百丁森の一軒家(本館) 「母乳教」は何とかならないものか


医療サイドのよいまとめ
自然は脅威 - たまごや日記




特に、これから初めて出産だというような方へ。「自然なお産」に関して、それを取り入れている助産院/病院が全て、カルト的に上記のようなことを妊婦に強いているわけではないと思います。まず、万が一のために、医療との連携がしっかりある産院かどうかを確認してみてください。
また、初産の場合、出産当日や、産後に不安なことも多く、そのケアが大切になります。医師以外の方がそういったケアをしてくれるところが見つかると、総合病院でなくても安心できるかもしれません。
一方、「自然なお産」関連で、負担になるような行為をしいられるところ、医療との連携を嫌がるところは、避けた方がいいと思います。
 
最近は医師の数や、産院の数がかなり減っています。出産当日、どんな流れでお産が進むのかは、個人差はあれおおまかには同じです。そういったことを予習しておくだけでも、人手が足りない現場で、安心してお産を終えることができると思いますよ。