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kobeniの日記

仕事・育児・伏し目がちなメガネ男子などについて考えています

どうでもいい話を、のびのびと〜村上春樹さんに学ぶエッセイの書き方〜

こんにちはkobeniです。急に秋らしくなりましたね。ゆず蜂蜜ティーなど飲みながら、ほっこりしたいです。


さて今日は、村上春樹さんのエッセイ集「おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2」について、書きます。
「村上ラヂオ」は、10年前にananに連載されていたエッセイです。2009年から、約10年ぶりに連載が再開され、それを単行本にまとめたのが、この「村上ラヂオ2」。
私は最初の「村上ラヂオ」も読んだことがあって、読後感をよく覚えていたので、今回また2が出て、「わっ」と思いました(うれしくて)。そして想像していた通り、やっぱり「読むだけでちょっといい気分」になれて、クスッとなりつつ、「やれやれ」とつぶやきたくなる本でした。秋の夜長に、久しぶりに自分の時間ができた、なにか頭や心を使う活動がしたい、けれど深刻なドキュメンタリーや、破天荒なハリウッド映画は受け止めきれない。というような時に読むと、得した気分になれる本だと思います。カフェなどへ出かけてもいいし、どこかへ足を選ばなくても、ゆず蜂蜜ティーでもいれて、自宅で読んだって贅沢な気持になれそう。もちろん旅先、飛行機の中なんかも、良いかもしれないな。



そういえば昔よく、「チクテカフェ(CICOUTE CAFE)」に読書に行ってました。大好きな本を読みながらスコーンを食べる至福の時間…


■ 村上春樹さんの「エッセイを書く時の原則、方針」


読後にあんまり気分が良くなったので、この「サラッと」かつ「へぇ〜」な感じはいったい、どこから来るのだろう?私も、たとえばブログでこんな読後感が味わえる文章が書けたら、すごく素敵なのに…パクれるもんならパクりたい…なんて思い、ちょっと分析してみることにしました。エッセイって、簡単なようで実は非常に難しいジャンルだと思います。けれど、書けたら書けたで楽しそうなので、なにか文章を書きたい・書いてる皆さんにもお役に立つ知識になればと思います。
(基本的に、本のネタバレは避けるようにしていますが、一部引用と、本のtipと言えるようなことは出てきますので、ご了承ください)

そもそも村上春樹さんは、エッセイの連載を滅多に持たない人です。でも、彼は小説家だから、エッセイだってラクに書けてしまいそう。と私なんかは思うのですが、どうやらそうでもないらしく、この「村上ラヂオ2」の中に「エッセイはむずかしい」というエッセイ(?)が載っていました。彼いわく、むずかしいながらも、書く時に守っている「エッセイを書く時の原則、方針」があり、それが次のようなこと、だそうです。

まずひとつは人の悪口を具体的に書かないこと(これ以上面倒のたねを増やしたくない)。第二に言いわけや自慢をなるべく書かないようにすること(何が自慢にあたるかという定義はけっこう複雑だけど)。第三に時事的な話題は避けること(もちろん僕にも個人的な意見はあるけど、それを書き出すと話が長くなる)。
P.32「エッセイはむずかしい」より


ひとつめとふたつめは、今すぐにでもマネできるというか、割と手をつけやすい気がしますよね。悪口を書かない=誰かへの批判も(基本的には)しない、ということになるので、読んでいる方としても、やわらかい内容が予測できて安心、ということはあるでしょう。ふたつめの「自慢話をしない」は、受け手によって「何を自慢ととらえるか」は違うから、もしかすると気づかないうちに、自慢話を書いてしまうかも。けれど、「よーし今日は自慢するぞ!私ってすごい!!」という気持で書かなければ、つまり…自慢することをその文章の主題としなければ、そこまで気にならないはず。書き手がそこまで自慢する気がないのに、「自慢だ!自慢してる!」と捉える人というのは、よっぽど卑屈な人でしょう。
「言いわけをしない」については、webで書く時はけっこう難しい。紙媒体に比べて反論やdisのコストが低いので、とにかく先まわりして「ただし○○ですが」とか「これは○○という意味ではなく」、などと言いたくなってしまいますよね。「追記」を後からしたくなったりとか。けれど、そういうことを書きすぎると、フラットに読んでいる人には「なんだか、文章がまどろっこしいな…」と思われてしまうかも。村上さんのエッセイは、そういう補足や言いわけは最低限に抑えられていて、文章としての気持よさが優先されている感じ、のびのびとした感じがしました。「うーんやっぱり活字はこうでなくっちゃ」と思いましたね。
(そういえばこの本の魅力のひとつとして、「かんぺきな紙と、かんぺきな装丁と、かんぺきな挿絵」でできている。ということも外せません。銅版画は大橋歩さん、装丁は葛西薫さん。そして手触りのよい紙。これが電子書籍だったら、魅力は半減すると思います)


■ 「どうでもいいような話」を支える文体や引用、話の流れ


3つめの、「時事的な話題を避ける」が、webでは一番難しいんじゃないかと思います。たとえばブログ記事では、基本的に求められているのは「時事的な話題、あるいはそれに関連した話題」だと思うのですね。あるいはライフハックのような「すぐ使える、役に立つ話題」。「時事的な話題・旬な話題に対して意見を述べる」という記事のスタイルは、人々の関心がそこに集まりやすいから需要もあるし、ネタが用意されている分、書き手もやりやすい。
「時事的な話題ではない、誰かの悪口(批判)でもない」さらに、「役に立つ・便利な話でもない」…って、なに?それって、「どうでもいい」(=知ってても知らなくてもいい)内容になるんじゃ…?と思ったんですが、案の定その通り(笑)らしく、ご本人が続けて

要するに「どうでもいいような話」に限りなく近づいてくるわけだ。僕は個人的には「どうでもいいような話」がわりに好きなので…(以下略)


と書いています。
「どうでもいいような話」って例えば、なにか?このエッセイ集で言えば『あざらしの脂肪でつくられたサプリメントの話、日本のプロ野球がなぜつまらなくなったか、ナイキ本社の「究極のジョギング・コース」とは、ギリシャで見た幽霊、アボカドの適した選び方…』
といった感じです。たしかに…どうでもいい…ような気もする!でも、このネタのチョイスの時点で、ちょっと知りたくなる内容ですよね。むしろうちの夫が、どや顔で語りたがりそうなウンチクではある。


かといって、「あざらしの脂肪で作られたサプリメントが熱いらしい(by Gigazine)」とか「そろそろ日本のプロ野球についてひとこと言っておくか」みたいなタイトルの記事がホッテントリ*1に上がってたとして、読むか…?いや私は読みません。そう考えると、彼の文章の魅力は、ネタのチョイスだけでなく、当然「文体」とか、膨大な知識や文化的素養に基づく「(気の利いた)引用」、話の「流れ」などにもある。ということなんでしょうね。(気の効いた引用がどんなものかって?ぜひ読んでみて体感してください)


■ 持論を展開「しすぎない」


読後感として「へぇ〜」とか「くすっ」の他に「シャレオツ…!」感が残るのもやっぱり春樹節。いまどき「シーザーサラダ」をあえて「シーザーズ・サラダ」と書いたり、「半年ほど北欧へ行っていた」とサラリと書いたりしても鼻につかないのは、村上春樹小沢健二ぐらいでしょう。(王子はツイッターのことを「トゥイター」と書いていたような…トゥイター!トゥイター!)


「どうでもいい話」のポイントとして、「持論を展開しすぎない」ということもあると思う。たとえば『海外で見る日本人カップルって、なぜか女性の側がいつも英語を話しているよね。男性は座ってうしろで見てるだけだよね。しっかりしなよ』みたいな内容のエッセイもあるのですが、こんなこと私がブログで書いたら即炎上ですよね…
彼のエッセイでは「それは男性がうんたらかんたらな理由で草食化したからでありー!」などと、つづけて説得しようとしない。「どうしてなのかなあ」と書いておしまい。次の話題へ行く。メッセージや思想を伝えたいわけではないから。
そういう風にフッと引いても、不完全燃焼にならない文章が書けるなんて、やっぱりすごい技術だなと思います。ふつうは「お前なにが言いたいんだ」で終わりですよね。


■ 話者が「村上春樹さんだから」愛される


私は日頃から、たとえば皆さんがランチタイムなんかに、ちょっと一息ついた時、食後のコーヒーのお供に「あ、きょう本を持ってきてない。なんかweb記事でも読むか」というようなシーンで、ブログ記事を読んでもらえたらすごく嬉しい。と思っているので、できることならマネしたい!この読後感。もちろん、バキバキ持論を展開したい時もあるので、その記事の目的にもよりますが、ほんの少しでも近づけたら…と思うのですね。
けーれーどー、忘れてはいけないと思うのは、この「どうでもいい話」は村上春樹さんが話者だから」読まれ、愛されているという部分が、非常に大きいだろう。いうことです。あんな小説を書いている村上さんが、こんなどうでもいい話をしている…!かわいい…!萌える…!みたいなところが、多分にあるのではと。読んでいる人が「彼のファン」であることが前提で、文章に「彼自身の人間的魅力」がにじみ出ているので、どうでもいいようで、どうでもよくない文章になっている。ということではないのか!

エッセイって、人柄が出ますよね。そもそも「知ってても知らなくてもいいけど、知っておくとちょっと人生が豊かになったような気がする」ことを、ネタとして多数チョイスできる時点で、人生観がステキというか、人として魅力的。うーん、だからまずは、私自身の人間性を磨かなくてはならないんだな…。ふむ、文章を書く以前の根本的な問題にぶちあたってしまいました。まずは友達が少ないというところから自己批判だな…あとは夫に優しくないというところも…



それにしても、小説では非常にシリアスで、大きなテーマを扱ってきている彼が、奥さんの目を盗んでこっそり牡蠣フライを食べたり、夜な夜な「パンダ丼(ミニサイズのパンダがご飯の上に並んでるんだって)」の夢を見たりしつつ、過ごしているのだと思うと、「ああなんか、肩の力抜いて生きていいんだ」と思えて嬉しくなる。…ってこと、ないですか?知らなくても特に困らない話ばっかりなんだけど、そんなことを思えるだけでも、読む価値があるような。やれやれ。




おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

村上ラヂオ

村上ラヂオ

*1:「はてな」の人気記事。Hot Entryの略です